2016年 11月 01日
巨大労働組合が暴走するとき ~メキシコ教育改革に立ちはだかる壁 SNTEとCNTE~ 2016年10月編
オアハカでの生活開始以来、ゲラゲッザ・シーズン前後に合わせて、ほぼ毎年「CNTE(Coordinadora Nacional de Trabajadores de la Educación)が今日は、○○○○のショッピングモールを営業妨害してるよ」とか「ADO(長距離バスのターミナル)がCNTEたちにブロックされた」とか、「空港付近がCNTE達に封鎖されているので、フライトを逃した人たちがたくさん出て、観光客も足止めを喰らって困っている」というニュースを幾度となく耳にしてきた。このブログでも結構書いてきたのだが、CNTEとは教員たちによる労働組合で、今年は、6月、オアハカ郊外のNochixtlánでおきた労組員と軍隊の衝突の様子をBBCのニュースが伝え、YAHOOジャパンがその記事を翻訳して、日本でもネットニュースとして流れていたので知っている人は知っていると思う。
今年一番、私の気分がどよよ~んとなったニュースは、救急車で搬送途中の女性が、CNTEたちが街を封鎖していたために渋滞に巻き込まれ、病院に到着する前に息途絶えてしまったというものだった。おそらく私を含め、周りの就学生をもつ保護者達の一番のストレスは、「どうして政府はこうも能無しで、どうして組合はここまで野蛮になれるのか」というものだとおもう。「貴方たち本当に先生なの?」と首をかしげるほど、スト中に暴れるレベルが平均的日本人の想像をはるかに超えて、最初は私もかなり困惑というか、「????なんじゃこりゃ?」と現実に起こっている事とは思えず「夢」っぽく思えたものだが、メキシコの教育システムを知るにつれ、この国特有のジレンマ(汚職払拭&国民の教育レベルアップの課題)の存在が見えてきた。
メキシコの教員労働組合は、他のラテンアメリカ諸国では見られないほどに、強大な権力をもってやりたい放題やってきた。ちと調べたところ、その発端というか、それに拍車をかけた協定というのが、1987年に、デ・ラ・マドリ大統領のもとで署名された「経済連帯協定(Pacto de Solidaridad Económica )」というもので、この協定に「労働組合連合(Confederación deTrabajadores de México)」も参加したとある(P126/箕輪真理)。これに参加したことで、教員労働組合(SNTE)も含めて、労働組合連合の要望が政治に反映される→政府と癒着しはじめる→巨大な力を持つあんまりよくない組織へと変貌していったと思われる。
ここでSNTEとCNTEの違いについて触れたいと思う。どちらともメキシコの教員労働組合なのだが、SNTE(El Sindicato Nacional de Trabajadores de la Educación)の発足は1943年で、教員メンバーは150万人。一方、CNTE(La Coordinadora Nacional de Trabajadores de la Educación)は、SNTEの方針に不満を持ったSNTEの一部の幹部が、分裂して新に発足させた別組織の労働組合で、発足したのは1979年のこと。そして、2012年にエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領が打ち出した教育改革に暴力的に反抗しているのが「CNTE」だ。CNTEの抗議運動は、オアハカ州をはじめ、チアパス州、ミチュアカン州、ゲレロ州などにも拡がっており、彼らが今年も首都の国際空港近辺を閉塞して、首都のみなさんに多大なる迷惑をかけたので、メキシコ国内のオアハカに対するイメージは決してポジティブなものとはいえないという。2012年に打ち出された教育改革の内容はまたあとで詳しく説明するが、メキシコ政府と文部省(Secretaría de Educación Pública)はSNTEとの交渉は続けるが、CNTEとは関係・交渉はしないと発表している(「メキシコの教育改革~ぺニャ・ニエト新大統領の挑戦~」P144/箕輪真理)。メキシコ政府は、CNTEの存在自体をゲリラ扱いしている。
しかし、オアハカ州でのCNTEのパワーは侮れない。Wall Street Journal紙の記事によると、オアハカ州にて教員として活動している人は83,000人。そのうちの81,000人がCNTEの労組員だ。それに対し、州の強行警察部隊はたったの約3,500人。CNTEのリーダーRubén Núñezは、「俺達は、数時間のうちに何千人という教員をどこへでも出動させることができる」と豪語している。ワッツアップ(ライン)や、SNSなどから指令を出し、教員を出動させるらしいのだ。実際、何処から湧いて来たのか、いきなり人だかりできたとおもったら、その集団が全く関係のない民間のスーパーやらショッピングモールやらをあっという間に通せんぼして営業妨害をしてしまう。酷いときには商品を強奪しはじめる。そんな事がストライキ中はしょっちゅうあるのだからたまったもんじゃない。警察治安部隊のメンバーが全然足りないので、ストライキ中は州外から連邦軍隊もやってきて、街の警備に当たっている。なんという国家予算の無駄なこと。教員のほかにもいろいろな団体がストライキをする土地柄/お国柄なので、最近では、こんなウェブサイトが便利だ。↓https://www.facebook.com/AccidentesyBloqueosenOaxaca1/
しかし、同じメキシコ国内でも北部の先生達はおとなしく、比較的素直に政府の打ち出した教育改革に従っているというのに、南部の教師はいつまでもダダをこねているのはなぜなのか。一部のSNTEの人間は、CNTEの行動を非難している。そんな野蛮でやばい宗教じみたCNTE、論点がずれているCNTEの実例を紹介したいと思う。まずCNTEの組員は、基本的に選挙投票に自由がない。「今度の選挙は○○○党の誰々にいれろ」と組合のリーダーから言われればそうしないといけないらしいのだ。今年の夏には、「固定電話を家に引いている者。テレビのケーブルを契約している者はただちに解約しろ。そして大手会社を営業不振にさせて困らせてやれ」という指令がCNTE幹部から流れたという。これに対して教師をしている私の知人(3人の子供のおかあさん)は、「無茶いわんでくれ」と嘆いていた。また今年の6月に、CNTE組合トップ二人が逮捕(1人は Francisco Manuel Villalobos Ricardezで、彼は2015年に本を盗んだ容疑で。もう一人のRuben Nuñezは、資金洗浄の容疑で)されると、すぐさまCNTEはこの逮捕を「誘拐」&「独裁処置」と叫び、二人の釈放を要求して、更に街を荒らした。結局二人は間もなく釈放され、連邦当局の無能ぶりとCNTEの蛮行だけが印象に残るという出来事として終わってしまった。
ではなぜペーニャ・ニエトは、2012年の就任早々、教育改革に踏み切ったのだろうか?筑波大学・箕輪氏よると、メキシコの国家予算の20%が教育費に当てられており、そしてその教育予算の80%~90%が教師の給与に当てられているのにも関わらず、その支出が効率的に使われていないとある。また、労働市場を改善してGDP成長率を上げるには、国民、一人ひとりの教育レベルアップが鍵であるという事実を政府は無視できなくなった、とある。メキシコの格差を語る際、よく「メキシコには中間層がいない。あるのは裕福層と貧困層だけだ」と言われているが、メキシコ国立統計地理情報院が出した数字でも、低所得者の割合は59.1%、中間層の割合は39.2%、そして高所得者は2・5%とある(P128/箕輪)。メキシコのGDPの成長率は近年ブラジルを上回ったことがあるものの、労働市場の質をあげるためには教育改革は必須という事実を突きつけられた結果、政府はようやく動きだしたというわけか。
SNTE/CNTEを問わず、メキシコでの今までの教育運営構造の特徴として、日本では考えられないくらいに労働組合がすべてを牛耳ってきたことが挙げられるだろう。それは校舎の数、教員の雇用&昇進、教員への給与額にはじまり、教師がクラスで何をどれだけ教えるかは、労働組合の一存で決められてきた(文部省認定の教科書というのがない)。教員から保護者への説明責任&情報開示が義務付けられてこなかったため、教員のパフォーマンスの質を保護者が知る術はまったくなしだった。前途したように、教育予算の8割~9割が教員の給与にあてがわれているのにも関わらず、教育現場で何が起こっているのか誰も知る術がなかった。たとえば子供の担任の最終学歴/出身校を保護者が質問したとしても、労働組合から「貴方に教える必要はない」と言われればそれまでだったというわけである。
文部省が今まで介入できずに、労働組合が行ってきた忌まわしい慣習(’92年に結んだ癒着のために、政府はずっと黙認してきたともいえるが)として、世襲制度とポスト売買があげられる。世襲制度は親子間にて、教員のポストを引き継ぐというシステムで、親が退職した後、空いた教員のスポットをその子供が継承するというものである。また、自分の教員ポストを引き継がせる子供がいなかった場合など、そのポストを売買するという方法も長年とられてきた。その際に発生したお金もCNTEの懐に入る仕組みとなっていた。雇用が不安定なメキシコ社会において、終身雇用でいて、休みがかなり多い教員職は確かに魅力的だ。そんな感じで新車一台が買える額でポスト(プラザ)の売買が行われてきたそうである。さらに、代々教師をしている家系であればあるほど給料が多くもらえる、という摩訶不思議なシステムもある/あったようなのだ。給与口も複数の機関から支払われており、表向きの給与明細書では50ペソだが、また別の給与明細書には、「世襲手当」としての給料も支払われてきたと聞いた。とにかくこうやって給与窓口を複雑化することによって、一般市民&政府の目をくらましてきた、ともいえる。そして幽霊部員ならぬ、「幽霊教員」の問題も見過ごせない。メキシコの民間グループMexicano Primeroが2009年に行った調査によると、実際に教壇に立ってない教員約2万2千人が、毎年一億3000万ドルの給与を政府から受け取っている(P139/箕輪)と報告している。
教師になりたいものは教員免許試験をパスしなければ晴れて教師にはなれない、これは日本では小学校高学年でも知っていることなのだが、ペーニャニエト大統領が打ち出した教育改革の内容のうちの一つがまさにこれなのだ。そう、教員採用試験の義務化である。2015年の12月頃だったかに、この採用試験はすでに行われた。すでに教員になっている者、これから教員になりたい者が各州で一斉に試験を受けたのだが、オアハカのCNTE軍団は、「やだ。俺達はすでに教員だ。今更試験など受けて何になる。これは憲法違反だ」とダダをこねストライキ(もちろんその間は学校はなし)をしていた。これは2年間の間に3回まで再挑戦ができる。3度目でも不合格になった者は、学校の事務職にまわるか、もしくは解雇されることになったのだが、後に、妥協案が出され、解雇されたものは労働裁判所に訴える権利が認められることとなった。また、当初は試験の成績/結果を保護者などに一般公表するとあったのだが、教員のプライバシー問題をPRI(制度的革命)党&PRD(民主革命)党の議員達が考慮した結局、試験のスコアは公開はされないこととなった。PAN(国民行動)党だけが、個人の試験結果も公表するべきだ、と主張した(P142/箕輪)。
その他にも、今までは教育大学を卒業した者のみだけ教員になる資格を与えられてきたのだが、2年後からは、専攻した学部は関係なく採用試験をパスすれば大卒者は誰でも教員になれることになった。しかし、すでに行われた採用試験では、教育学部以外の大卒の受験者たちは、身を隠して怯えながら試験会場に到着したとある。教育学部以外の大卒者の受験が今後できる事になったことに対して、CNTEを通じて教育界を牛耳ってきた者たちにとってはそれが面白くないらしい。実際に、法学部を卒業し、教師志望である36歳の男性は、会場で嫌がらせ(ハラスメント)を受けた、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。
今から24年前の1992年にSNTEはPRI党のもとで、教員の雇用と昇進をコントロールする権限を獲得し、組合が教員の給与手続きを代行するシステムが開始された。それと引き換えに、150万人ものSNTE組員の投票をPRI党は約束された(P139/箕輪)とあるように、票を確保したいが故に、当時の与党が国の教育制度の運営責任義務を教員労働組合に「ほらよっと」と、丸投げしてしまったこの事件こそが、悪の根源だったといえるだろう。それから2013年に、SNTEの女リーダー;Elba Esther Gordilloが収賄・資金洗浄などの容疑で逮捕されるまで、一労働組合としては、SNTEの権力はラテンアメリカのなかでも最大とされてきた(今でも権力は最大規模だが)。しかし、この教育改革で、給与システムの流れが大幅に改善されることになった。従来は、メキシコ中央予算→州政府財源→組合だっだのが、今後は、メキシコ中央予算→文部省を通じて支払われる事になった(P143/箕輪)。
この給与手続きの変更に対して、CNTEのメンバーでもあり、娘の通う幼稚園の先生達が「これは憲法違憲だ」と激しく反対していたのだが、それは1993年に調印された「基礎教育近代化のための合意」が引っかかっているのでは?と箕輪真理氏のレポートを読んでふと思った。この合意は、「官僚的/中央集権的教育システムを見直すために州政府に予算と学校管理の委託をする」という内容だったのだが、今回の教育改革でこの調印内容がオジャンになってしまい、「じゃぁ一体、あの合意は何だったんだよ!!」と彼女達はやたらとヒステリックになっているようにみえた。実際にCNTE員たちは、給与手続きの変更が発表されるやいなや、INEE(国立教育評価機構)のオフィスに入りこんで、コンピューターとデスクをチェーンで縛り、オフィス業務を麻痺させるという嫌がらせをやってのけた。
全く何を主食にしたらこんなに凶暴になれるのかと、思うと同時に、「俺のプライドは一体どうなる?」を重んじるメキシコ特有の国民性が、事を厄介にしているのでは?と個人的に私は思えてしょうがないのだ。例えば、仕事上でヘマをした社員を上司が同僚の前でそのことを詰ったことに対して、自分がやらかしたミスは棚に上げて、「何でみんなの前で叱られなきゃならんのだ。俺のプライドは??」と、人事部に猛烈に不満を訴える、という話を幾度か聞いたことがあるのだが、このように、「捨てるプライド」と「守るプライド」がごっちゃになってる人が多い土地柄の故に、仕事上のミスに対しても、ただ素直に「すみませんでした」といえないヘンチクリンなプライドが、CNTEの一連の集団心理学にもなんらかの形で影響を及ぼしているように思えるのだ。
CNTEは「この教育改革は教育制度を民間化してしまう。断固反対じゃ!」と声明を出している。しかし、民間化の何が悪いのだ。いいじゃ ないか、競争があったほうが。いろいろなバックグラウンドの人たちが教員になったほうが、教員間でのdiversityができて、学生にとっても刺激的になっていい事ずくめだと私はおもうのだが。CNTEのスローガンは「社会の弱者を見捨てず、権力にたちむかう」とうたっているが、実際彼らがやってきたことは、自分達の組員に恐怖を植えつけてそれを煽って洗脳し、権力を悪用してきただけじゃないのか。CNTE幹部はこの教育改革が本格化することで失うものが多すぎるのだ。ポスト売買/世襲制度の廃止、教員の雇用/昇進のコントロール&給与管理権限の剥奪などなど。彼らにしてみれば子供の教育を受ける権利は、彼らにとっては当の昔にもうどうてもいいのだ。オアハカではCNTEによる度を過ぎた組合活動のために、10年間の学業期間のうちに、1年から1.6年間子供達は学校にいけないというのに、だ。まさに本末転倒なのだ。そして州別学力順位でオアハカ州は、32(1つの連邦地区と31の州)州中31位ときている。2006年に激化したストライキでは幼稚園児から中学生徒は、6ヶ月間学校にいけなかった。
前途したように、オアハカ州には約81,000人のCNTE労組員がいる。私が個人的に、彼らのストライキ中の行動をみていていつも思うのは「まるで敵地で蛮行を繰り返す下級兵士のようだ」だ。上から言われるがままに翻弄され、怒り・不満・不安のストレスを何処にぶつけていいのか分からなくて悶々としている労組員が群れになったときのあの集団心理の恐ろしさ。全く関係ない民間の店を強奪(今年は、セントロのCOPPELなどが血祭りに上げられた)する。民間のトラックに平気でスプレーで落書きをする。製菓会社の配達中のトラックから箱ごと菓子を盗み取る。今年は、この様子を誰かが撮影して、フェイスブックなどにもその動画がアップされたのだが、異様だったのが若い男女(労働組員)がいちゃつきながら、楽しそうに段ボール箱を荷台から運びだしているという映像だった。教員をしているがしょっちゅうストライキをしているので、慣れた手つきであっという間に大踊りの信号付近に、石をつみあげ交通閉鎖をする。よりよい教育環境や待遇を求めて品よくストライキをするということはまったくせず、観光シーズンを狙って観光客が集まるソカロにわざわざテントはって占拠し、野糞をし、所構わずトラユーダを焼きだすらしく、彼らのサバイバル精神/エネルギーをなんとかほかの高尚な事に活用できないものか。
ストライキシーズンに突入すると、クラスが行われるのか否かの決定はその学校の先生達による。娘のイトコの幼稚園は普通にあっても、娘の幼稚園は月曜日と木曜日しかクラスがなかったりする。娘の幼稚園の場合は、通常は、園長+4人の先生でまわしているのだが、ストライキ中は、園長+先生二人が園児たちを見て、残りの先生二人はストライキに参加するというローテンションを取っていた。そして子供を見てくれる時間は9時から11時。たったの2時間。送り出したと思ったらもう迎えの時間。たったの2時間しかみてくれないのに、ランチを持たせろという。園児たちがランチを取っている間、先生達は井戸端会議ときたもんだ。ところで、今から2週間前に義妹と話していたら、彼女の息子が通っていた幼稚園では、日によっては朝の8時から昼の1時まで園児を預かっていた、というのをきいてかなり驚いた。園の時間まで、先生達によってだいぶ違うらしいのだ(娘の幼稚園は基本9時から12時まで)。やはりこういうのはよくない。州立なんだから、預かる時間もちゃんと統一するべきだ。
今年の場合は、5月下旬に保護者会で、「来週からストにはいるから、とりあえず年中A&年長Aは、月曜日にクラスをします。年中B&年長Bは火曜日にクラスします」という発表が園長からあって、その後は、明日クラスがあるのかないのかは、前日までわからないという有様だった。ある日など、「明日はクラスやるよ~」というので、娘を連れて行ったら、「やっぱ今日はやらない。でも宿題は出すから」と軽く裏切られた事もあった。この時期のわたしは「もう信じられない…もういやだ、オアハカ。私立に通わせるか、日本に帰るかのどちらかか、やっぱ…」と何度ヘソを曲げたことか。そして、6月の第3週にCNTEと連邦部隊の衝突がノチトランで激化し、死者を6人だしたので、急遽、週明けの20日保護者会が開かれる事になった。
当日の朝、娘と幼稚園へ行くと、クソ狭い図書室に保護者は集められた。保護者と一緒にやってきた園児達は別室で映画をみることになった。なんせこの村は放牧村=大所帯=ちびっ子を面倒見てくれる人が必ず家にいる、という感じなので、親と共にやってきた園児は20人くらいか(園の総人数は70人前後)。この日の先生達は、CNTEの活動を正当化するために、いつもなら絶対に使わないプロジェクターまでもってきて、何とか保護者の理解を得たいらしかった。のっけから「この一連の教育改革は憲法違反なんです」と訴え「私立の教師だってろくなのいないじゃない。児童ポルノでこないだ捕まってたのもあれ、私立の先生だったわよ。その人が教員に向いているか否かなんて、教員採用試験でははかれないのよ」と息巻くブランカ先生。いや、計れるよ。多少は。というより、ある程度の篩いをかけることは最低限必要だろうが。なぜなら、ロクに単語のスペリングもできない/基本計算ができない先生が子供の担任だなんて、真っ向御免だからな。
保護者の1人に、ノルマさんというママさんがいる。彼女は我が夫のゴッドファザーの姪っ子さんで、見るからに肝っ玉母ちゃんで、よく発言するので園内で知らない人はまずいないのだが、この日は彼女ががんばって保護者の意見を代弁してくれた。「CNTEの敵は政府や文部省であって子供達じゃないでしょう?どうして子供達の学校へ行く権利を奪うの?」、「CNTEの組織が複雑すぎて何がどうなってるのかまったく分からないので、先生方の主張をはなっから否定するわけではないが一連の騒動をみている限り共感はできない。だって、どうして関係のない養鶏たちが火あぶりにされないといけないの?」「あんなに街を荒らしている集団があなたたちの先生なのよって、どうやったら子供に説明できる?」などと、訴えてくれていた。しかり、先生たちは、「この写真をまずみてほしい」とスライドをみせ、軍隊が銃を向けて、教員達が立てこもっていた建物に侵入しようとしているようにもとれる写真一枚を指して、「先に銃を向けたのは、かれら(軍隊)のほうなんだ!メディアはそれをちっとも報道しないんだ!」といって、ノルマさんの訴えには一切答えなかった(私は立てこもること自体法に触れてないか?とも思った)。結局、保護者会は保護者と先生達の溝を深めたまま、「クラスがいつ再開できるかは村内放送でお知らせしますから、それまで園児は自宅待機」という園長のコメントを最後に、喧嘩別れの状態で終わった。この日の緊急保護者会で拘束された時間は3時間半!グアダラハラとかプエブラに住んでいたら、こんな目に遭うことはないんだよな~、と不毛な事を考えながらも、この日は、労働組合が権力を持ちすぎると、本末転倒になってもう取り返しがつかなくなると実感した日でもあった。
今年のスト中は、ほぼ毎度のことなのだが、プエブラ州とオアハカ州を結ぶ高速道路が封鎖されて、物流が途絶え、お店によってはかなり棚がガランガランになった。(この期間、大手スーパーCHEDRAUIの棚だけはぎっしり詰まっていて、彼らの物流ネットワークの凄さに感心した)。いつも行くスーパーの野菜コーナーがガランガランになってしまったので、サーチラの定期市場まで野菜を買い求めた週もあった。メキシコ人が大好きな飲み物;コカコーラが3週間くらいだったか入手困難になった時期があり(噂で教員達が買い占めている、ともきいた)、義妹の相方;アンヘルに禁断症状が出始めたのをみたときには笑えた。この家族はコカコーラを水のようにガブガブ毎日飲んでいる。しかも朝から。将来の医療費負担額を勝手に考えると末恐ろしい(話がそれた)。
6月にあった卒園式&終業式の日がある週だけは、式の出し物の練習があったので、娘の幼稚園ではクラスはわりとあったのが、ずっと9時から11時までの2時間のみだった。スト中は、先生達の間では「今回、どれだけ労組活動に自分達が振り回されるのだろうか」という話題ばっかりで、クラスは開いても、ほとんと心ここにあらずというかんじで、園児達ははっきり言ってかなりおざなりに扱われているの実情だった。ただでさえロクに子供達を見てない先生達。それが、スト中は更に関心度が希薄になるので、この期間に無理して登園させた結果、監視度が低くなっている環境で怪我でもされたら割りにあわん、という感じで、私もあまり通わせたくないというのが本音だった。毎回、ストが長引く際は、一時的に子供を近くの私立に通わせて学力低下を防いでいらっしゃる親御さんもなかにはいらっしゃるようだ。やれやれ、オアハカ。
今年もそこそこ激化したストが落ち着きを見せはじめた頃、年度末報告会をかねた保護者会が幼稚園であった。会の終わりのほうで、保護者の1人が「今後、またストなどを予定してるのですか?今後の組合の活動を言える範囲でいいので教えてくれますか?」と親だったら誰もが知っておきたい権利がある質問を園長に投げると、なんと信じられないことに、この腐れ園長は、「もう、なんでその話もちだすかな~?私だって終わったばかりのストのことなんて考えたくもないのに~」と、半ばニヒルに笑って開き直った態度を見せ、会場が一瞬凍りついたのが印象的だった。なんだ、その態度はっ!スト中は、街、観光業界、就学生、お店、空港、長距離ターミナル、物流業界、交通機関、ETCに大迷惑をかけたというのに、自分達の活動が一息ついたら説明責任も果たさないのか、と思うと同時に、まぁ、洗脳漬けの組員にまともに反応してもしゃーないか、こんなもんか、と思いつつ、帰路についたのであった。
オアハカ州の学力レベルが、32州中、31位というのはすでに書いた。教育レベルをメキシコ全体でいうと15歳の時点で、半分は基礎的な算数しか出来ない。40%は、国語のレベルが十分に達していないとあるので、オアハカの場合、その平均をも下回っているといえるので、かなり深刻な事態だといえる。そういえば、私がオアハカに来て間もなく、スペイン語文法上の「SE」の用法の違いを夫をはじめ、色々な人に聞いたのだが誰も具体的に答えられなかったのはやはり笑い事ではないと思う。我が夫も含めてだが。
ペーニャ・ニエト大統領が打ち出した教育改革の要点を、箕輪真理氏のレポートから抜粋/要約した(TORRES 2013)↓
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1.公的基礎教育(幼稚園から中学まで)と高校の教員ポストの配分は、毎年行われる採用試験によってのみ決定される。(世襲・ポスト売買の廃止&禁止)
2.大学で専攻した分野に関わらず、教員の採用を教育大学出身者以外の大学卒業生にも拡大する。この改正に対してCNTEは、教育大学卒業生の雇用のチャンスが狭まるとして反対している。
3.教員評価の義務化。この試験はINEE(国立教育評価機構)によって政府から独立してデザインされ、各州の教育担当部署によって実施される。対象者は、教員、校長、学校カウンセラー、そして監督者。スコアの結果によって、現職にとどまる事ができるかどうか決定される。合格しなかった場合、2年間の間に3回までチャレンジでき、その間、担当政府部門は該当教員にトレイニングをする機会を与える。それでも不合格になった場合は、解雇もしくは、教育現場以外の職場への異動になる。
4.すでに教員職にあるものについては、3回不合格でも解雇はされず、事務職などのポストに配置されるか、あるいは退職の勧告を受ける。この項目に対して、CNTEは、雇用の保証を失う事で労働者としての正当な権利が奪われると抗議している。
5.試験結果の公表について。州ごと、学校ごとの結果は公表される予定だが、個人データは個人情報の問題となるので、保護者が担任のスコア結果を知る権利は見送られる。
6.正当な理由なく、教員が一ヶ月の間に三日以上教室を欠席した場合解雇となる。この解雇、あるいは他の処罰を受けた教員は労働裁判所に訴えを起こす権利がある。
7.組合活動の制限。現在、組合活動に専任している教員が、実際に教室に立っていないのにも関わらず、文部省から給与を引き続き受給しているケースが多いので、それをやめさせるために、教員組合の活動に従事する教員は、政府ではなく組合から給与を得らなければならなくなる(P143/箕輪)。
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わたしにとって、今回の教育改革については「そんなこと(教員採用試験&教員評価の義務化)当たり前だろ!そんな事も今までやってこなかったの?」と呆気に取られる内容満載となっているのだが、教育現場の舵取りを、肥大化しすぎた悪の根源;SNTE/CNTEから政府に取り戻すという、大変だが、遅かれ早かれやらないといけない改革であるので、オアハカでは、州政府対CNTEの攻防合戦がここ数年は続くのかもしれないが、もうそれはしょうがないな、と一応は腹をくくっているつもりだ。それにしてもCNTEの活動さえなければ、いいとこなのにな、オアハカ。まぁ、ユートピアはそうそうはないってことなのかもしれない(完)。
Works Cited/引用文献
http://ru.iiec.unam.mx/1821/1/num34-35-articulo3_Mart%C3%ADnez.pdf
file:///C:/Users/ayako/Downloads/AST35-125%20(1).pdf「メキシコの教育改革」箕輪真理
http://www.wsj.com/articles/mexico-takes-on-militant-teachers-in-oaxaca-1440026579
http://www.mexicanosprimero.org/
by ayabin79
| 2016-11-01 07:37